体感型アフリカツアー

それは、視聴者に現場の情報を伝える最終ランナー

キャスターという仕事

国谷裕子 著 / 岩波新書

1年ほど前(2016年3月)までNHKテレビ「クローズアップ現代」のキャスターをされていた国谷裕子さんの本。

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スターディーツアーは、現地に赴き、体験を通じて真実を学ぶ行動です。ジャーナリズムでは、取材や報道のプロフェッショナルたちが現場の真実を広く人々に伝えるわけですが、それに通じるものがあります。

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最終的に「報道する」というところまでいくかどうか、着地点が異なるとはいえ、起こっている現実をどう解釈するかは大切です。

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スタディツアーで訪れた先で、自分が取材者だったらどう見るか、何を伝えるか、考えてみるのも面白いでしょう。

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新しい視点を提示しようと試み、異なる意見や考え方を取り上げ、できるかぎり偏ることのないよう、公平さが求められるジャーナリズム。そんな世界に生きる人たちの葛藤について読むことは、とても参考になるのではないでしょうか。

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クローズアップ現代は、ゴールデンタイムの約30分で毎回1つのテーマを取り上げ、ライブで掘り下げるチャレンジングな番組です。いったいどうやって作られているのか? 毎回放送までに繰り広げられる濃密な準備作業、スタッフたちの熱いやりとりなど、舞台裏の様子には思わずうなってしまいます。

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国谷キャスターの本領が発揮されるのは、スタッフ渾身の作である取材VTRを見たあとに、生放送のインタビューでゲストたちから本音を引き出し、真実に迫っていくところ。事前の十分な下調べと予備学習、独自の視点と切り込みが冴えわたります。

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ちなみにニュースキャスターは和製英語で、アメリカではアンカーと呼ぶのだそうです。リレー競技でいうところのアンカー、視聴者に情報を伝える最終ランナーという意味があるとか。

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また、1998年から2016年までを駆け抜けたクローズアップ現代は、バブルの終焉から日本の構造改革、911、リーマンショック、そして東日本大震災を経て今に至る、時代変化の生き証人。この本を読むうちに、世の中の移り変わり、その間のジャーナリズムや視聴者、我々の微妙な変化にも気づかされます。

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ところで、2016年オックスホード辞典が選んだ今年の言葉は「post-truth」(和訳は、「ポスト真実」「脱真実」)だとのこと。客観的な事実や真実よりも、感情的な訴えかけに影響され、論理によらず心地よい情報や言葉になびいてしまい、極端な方向に社会が動いていく可能性も指摘されています。わかりやすいテレビやネットの映像に慣れきって、背後にある真実を読めない、あるいは読もうとしないのは危険です。

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クローズアップ現代の最終回のゲストとなった柳田国男氏は番組に「危機的な日本に生きる若者に8か条」を寄せられたそうです。その中には、自分で考える習慣をつけることや、多様な考えがあることを知ること、現場、現物、現人間(経験者、関係者)こそ最高の教科書だから自分の足でアクセスすること、などが書かれていました。若者ならず、日本人全体へのアドバイスである気がします。